−−−ひとり暮らし



「ただいま〜」
 と、玄関から声をかけても、返ってくる声はない。
 ある事情から、一人暮らしをすることになってから早十日。
 短いようで長い十日間で、一人の生活に慣れたと思っても、ふいに両親を
探してしまうこともある。今みたいに。
 数秒の記憶の欠如、ってほどじゃないけど、一瞬返事がないことを奇異に
思ってしまう。返ってくるのが当たり前のはずの返事がない、と。でも、す
ぐに思い出す。この家には、誰もいないのだと。
「感傷的になる自分ってのは、嫌いなんだけど、な」
 つい、声に出してしまう。
 一人暮らしの人間は独り言が増えるってのは聞いたことあるが、まさか自
分がそうなるとは思ってもみなかった。十日前まで、家では一言も口を利か
なかったのに。一年も前から考えてた一人暮らし計画をようやく実行したっ
ていうのに。両親とは没交渉が当たり前で、中学を卒業する頃には、両親の
顔を見るのも嫌で家に帰ってきても自室に閉じこもってたのに。むしろ、両
親に対しては憎悪さえ抱いていたというのに。
 人間って、おかしなもんだ。
 あんなに両親の存在が鬱陶しかったはずなのに、今は自分の行動を……


 買ってきたものをテーブルに置き、ソファに腰を下ろそうとしたところで、
玄関のチャイムが鳴った。
 頭をよぎったのは、ついに来たか、という諦観と安堵。
 そう、俺は安堵したんだ。
 ゴールデンウィークを挟んだ為に、引き伸ばしにされた他者の関与に。
 電話はコードを引き抜いて、音信不通。外に出たのは十日ぶり―――家に
あった食料や缶詰なんかがなくならなければ、もっと続くはずだった引きこ
もり―――ずっと部屋に閉じこもっていた。来訪者を告げるチャイムを聞い
た気もするけど、無視して……でも最初から、この日が来ることを望んでい
たんだな。
 だから、居留守はもう使わない。
 ゆっくりとした足取りで廊下を歩き、玄関のドアを開けた。
 真っ先に突きつけられたのは、黒い手帳。


「息子さん、ですか? お宅の庭から異臭がすると近所から苦情が出てまし
てね。そういえば十日前に悲鳴みたいな声が聞こえた気がする、っていう
証言もあるのですが……ご両親はご在宅ですか? 勤め先に確認を取ったと
ころ……」


 ドラマみたいだな……そう思いながら、男の声を聞いた。
 現実感のまるでない、虚構の世界。
 そう、最初から俺が一人暮らしをするなんて無理だったんだ。
 両親に反対されて、自力で生活費を稼ぐ経済力もなくて。


「聞いてらっしゃいますか? ご両親はどこに……」
 苛ついた様子で繰り返す男に、答えてやる。
「いますよ、庭に」


 庭の、土の下に。
 











 ********


 掲示板に書き込みながら、本当に即興で作りました。
 内容はともかく、やれば出来るんだな〜と(待て)
 でも、頭使ってませんので、なんでこんな話になったかは謎です。
 ひとり暮らしはしたくないわけじゃないですが、
 別に、家族をうざったく思ってるわけじゃありませんので。
 今の気分が暗いわけでもない、はず、なんですが……
 説得力ないですね;


  03.05.14.


BACK? or TOP?



女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理